姉歯事件を紐解き、建築行政の欠陥を見つめる

姉歯建築士 建築、施工あれこれ

皆さんこんにちは。yuさんです。

お盆休み如何お過ごしですか?私が勤務するハウスメーカーにはお盆休みという概念・制度はございません。「夏季休暇」という名の気休め程度で取得できるお休みが2日あるだけです。

(´・ω・`) ブラックだねー

さて、本日はさすがに私もお休みですが、建築業界に身を置く者として決して忘れてはならない大事件を振返り、建築行政の欠陥をシッカリと把握しつつ、今一度ハウスメーカーに勤務する者の責任を自覚して今後の業務にあたりたいと思います。

その大事件の名は、構造計算書偽造問題(Wikipediaより)、俗に姉歯事件と呼ばれていたものです。これも個人情報保護の流れでしょうか、現在、Wikipediaではこの事件を起こしたとされる姉歯秀次元一級建築士の名前は伏せられております。『「〇〇(Aの苗字)事件」とも呼ばれる』の記載にとどめられております。

今もなお、この事件の真相は分からないままですが、構造計算書偽造にいたる様々な過程が露呈し、建築基準法の改正が行われ、その後の多くの建物の取壊しや耐震補強工事が行われるきっかけになった極めて重大な事件ですので、可能な限り振返ってまいりましょう。

姉歯建築士

姉歯事件の概要

姉歯事件とは、2005年11月に発覚した、姉歯秀次元一級建築士による構造計算書の偽装が発端となった事件です。立件された罪状と関与した被告は、以下の通りでした。

姉歯秀次(元一級建築士)

・構造計算書を偽装 ⇒ 建築基準法違反、建築士法違反幇助

木村盛好(木村建設社長)、篠塚明元(同東京支店長)

・姉歯が設計した奈良市のホテルが強度不足であることを知りながら施工し、工事代金2.5億円をホテルから収受 ⇒ 詐欺罪、建設業法違反

小嶋進(ヒューザー元社長)

・耐震強度不足を知りながら藤沢市のマンションなどを引き渡した ⇒ 詐欺罪

藤田東吾(イーホームズ元社長)ほか

・姉歯により偽装された構造計算書に基づく建築確認・検査業務を行った ⇒ 公正証書原本不実記載

構造計算書が偽装された物件は、分譲マンションやビジネスホテルなど多数にわたり、多くの被害者を生んだ事件となりました。分譲マンションには建替えなどの公的支援を受ける措置が執られましたが、顧客は二重の住宅ローンを抱えることになり、人生が大きく狂いました。

この事件でクローズアップされたのは、以下の2つ。

【1】国土交通大臣認定の構造計算プログラムが改ざんされた

【2】偽装された構造計算書に基づく建築確認申請が承認された

(´・ω・`) ヤバいね…。

なぜ、国土交通大臣認定の構造計算プログラムが改ざんされたのか?

普通考えられないですよね、行政のプログラムが書き換えられるなんて。でも、できるはずのない改ざんが堂々と行われたのでした。

1.改ざんを疑う仕組みが無かった

建築確認申請手続きの中で、構造計算書の検証を行うことはありません。国土交通大臣の「認定した」プログラムはそれほど権威のあるものでした。しかし、改ざんを行おうとした者にとってはそのハードルは低かったと言われています。

2.構造計算は意匠設計者の下請けとして行っており、設計責任は構造計算者には無かった

建築確認申請上の設計者責任は元請け(木村建設)の意匠設計事務所(建築士)であり、構造計算に携わった建築士(姉歯)は書類上の責任はないと認識していたと想像できます。故に、万が一改ざんが明るみになった場合には、計算過程をミスしたとして修正すれば済むとでも思っていたかもしれません。

つまり、プログラムを改ざんするにあたって後ろめたさなどは無かったものと推測できます。

なぜ、改ざんされた構造計算書に基づく建築確認申請が承認されたのか?

1999年、建築確認申請制度は、確認・検査処分を民間確認検査機関に委譲することができるようになりました。これまで地方自治体に置かれた行政庁である建築主事が行っていた業務を、民間でも行えるように開放したのです。

民間確認検査機関には「建築基準適合判定資格者(確認検査員)」が在籍し、確認業務や検査業務を行い、確認済証の交付と検査済証の交付を行うと、その効力は建築主事が交付したものとみなす…という建築基準法の改正が行われました。

確認済証と検査済証については後日お話しますが、先に知りたい方はこちら(外部サイト)。

(´・ω・`) これって…???

そうですね。官から民への流れに乗って当時行われたことではありますが、民間確認検査機関って要は普通の株式会社(営利法人)または一般社団法人などです。民間企業が行う以上、当然にビジネスとして成り立たなくてはなりません。確認手数料等は行政より高くなりますが、価格以上のメリットが発生します。

それは…行政より早くて、緩いです。

今回の姉歯事件でこの民間確認検査機関として登場したのがイーホームズなどでした。姉歯により改ざんされた構造計算書が民間確認検査機関の確認を受ける際、プログラムの改ざんに気付くようなチェックが行われないのは、安易に想像がつくことでしょう。

(´・ω・`) まぁ、そうなりますわな。

建築基準法違反が生まれる背景 ~建築基準法の限界~

姉歯事件から13年、大きな建築基準法違反事件が再び起こります。

レオパレスによる施工不備問題です。詳細は私も過去の記事で述べておりますので、こちらの記事をご参照いただければと思います。

建築基準法違反には、姉歯事件に見られるように建築士が直接関与するケースと、レオパレス事件に見られるように工事(施工)に問題が見られるケースとがあります。しかし、施工に問題があったとしても、建築士に「工事監理」が義務付けられているように、やはり建築士の責任は免れません。

建築基準法の建付けを整理すると、以下のようになるかと思います。

建築士は関係法令に適合する設計を行う責任を負う

建築物の工事に関して工事監理者の設置は、建築主(発注者となる顧客)に責任がある

 (※工事監理については、こちらの記事で解説しています。)

③ 工事着工前までに、設計内容が関係法令に適合していることの確認は、建築主が(発注者となる顧客)が建築主事または確認検査員に確認申請をしなければならない

建築主事または確認検査員が確認審査を行い、確認済証の交付をすることにより、建築主は工事を着工できる

上記①~④を分かり易く言うと、皆さんが家づくりをされる際、法的には、建築行為は一義的に皆さんに責任があります。皆さんの責任で建築士を指名し、設計及び工事監理をさせるわけです。

(´・ω・`) マジ?

建築士は、建築主に対して責任を持つと同時に、建築士法に定める「公正で誠実な業務を行う」責任があります。そして、第三者的な立場で設計施工内容の適法性についてチェックする建築主事または確認検査員の存在があります。

姉歯事件では建築主、建築士、施工会社、確認検査員と、4者全てが立件されましたが、直接的な違法行為は下請けの建築士(姉歯)が行ったことでした。しかし、その違法行為を見抜くことができなかった確認検査員(イーホームズなど)の法的な責任が裁判では問われない判決となりました。

レオパレス事件でも、同じく確認検査員の責任は問われませんでした

建築確認制度に対する国の責任は?

…なんかオカシイですよね。

指定(民間)確認検査機関が複数の都道府県で業務を行う場合、国土交通大臣が指定します。事件で被告となった確認検査機関(イーホームズなど)は国が指定しており、その監督責任は国にあるはずです。

また、民間の確認検査機関が行った確認・検査処分は、特定行政庁の建築主事が行ったのと同等の効力があり、そこに不備があれば、建築主事にはその確認・検査処分を無効にする権限(責任)があります。

法制度上は、民間確認検査機関のミスを特定行政庁がチェックし、その業務について国土交通省が監督することになっていたにもかかわらず、それが全く機能せず改ざんが行われたのです。

しかし、これらの行政庁や国の責任が裁判で問われることなく、その後の建築基準法の改正により、建築確認申請の厳格化が行われ、建築士のみに負担を押し付ける制度変更で終わりました。

姉歯事件に思うこと

ブログ「とあるハウスメーカーの法務部門責任者のささやき」の筆者

この事件、直接改ざんに手を下した姉歯の責任はもちろん非常に大きく、決して許されるものではありません。ただ、それで終わらせて良いのか…という疑問は持っています。

ヒューザー小嶋元社長は詐欺罪で懲役3年・執行猶予5年の実刑判決は受けたものの、無罪を主張していたし、イーホームズ藤田元社長は姉歯事件で直接的な罪は問われておらず、mixiで上記の国の責任を語っています。

国は…上記の通りです。

事件が発覚してから16年が経とうとしていますが、被害者である顧客の中には、いまだに二重ローンの返済をしている人だっているはずだし、これらの顧客が置き去りにされている感がずっと残っています。

既に終結扱いされている姉歯事件を覆す力などありませんが、私は建築業界に身を置く者の一人として、この事件の重大性を忘れることなく、ハウスメーカーの仕事は全て顧客に繋がっていることを再認識し、日々の業務に努めてまいりたいと強く思います。

ではまた。

yuさん拝

コメント

  1. […] 昨日の記事、姉歯事件の深掘りでも問題として取り上げました建築確認ですが、皆さんが家づくりをされる際にも必ず通る道となります。 […]

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